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△△△食監物語
大量調理施設の品温測定について
  −ある病院給食施設からの質問に対する回答−
            h12.11.19

1 はじめに


 大量調理施設衛生管理マニュアルに基づく衛生管理ご苦労様でございます。このマニュアルの温度測定の部分は、勘に頼らず測定器で測定しそのデータに基づき衛生管理を徹底しよう、またその記録をして、衛生管理を後から検証できるようにしよう、そして、総合的に安全の証明が出来るようにしたいと考えたものです。
 しかし、材料受入時の品温測定は、細部については明確にされてはおりません。
 保健所の立場で説明しますと、
(1)保存基準
 一部の食品では、食品衛生法第7条の中で保存基準が設定されており、営業者は遵守義務があり、遵守しなければ営業禁止や罰則の適用まで用意されております。
  ・清涼飲料水(ガラスビン入りで紙せんのもの)10℃以下
  ・ミネラルウォーター類で未殺菌のもの 10℃以下
  ・冷凍食品 −15℃以下
  ・生ハムなど非加熱食肉製品 4℃以下
  ・ハムのうち120度4分加熱していないもの 10℃以下
  ・練り製品のうち120度4分加熱していないものなど 10℃以下
  ・食肉、牛乳、生食用カキ、ゆでだこ 10℃以下
 そのほか油菓子は直射日光を避ける、豆腐は冷蔵または冷水で換水して保存する、などがあります。
 これら保存基準に対する保健所の指導は、法律の罰則までの背景があるので、命令に近い指導となります。しかし、上記食品以外に保存基準は定められておりませんのであまり参考にはなりませんね。
 一方、賞味期限の表示基準の中で保存温度を表示することが義務づけられております。これは製造者が自主的に決定する温度を表示するもので、たとえば10℃という保存温度で保存すれば1ヶ月後の12月22日まで品質を保証する、というものです。保存温度の表示の無い物は常温保存で賞味期限まで保証する、ということになっています。一般的にはこれに従っていただくということになるのでしょうか。製造者がこの温度で保存してね、といっているのにそれを外れてはいけませんねという程度でしょうか。

(2)指導マニュアルなど
 大量調理施設衛生管理マニュアルは、営業者自身の衛生管理の指針として、厚生省が示したものです。当然、保健所の食品衛生監視員も、これにもとづき、営業者を指導します。これと同様のものに衛生規範があります。弁当そうざい衛生規範、漬物の衛生規範、洋生菓子の衛生規範、セントラルキッチン/カミサリーシステムの衛生規範などです。
 ただこれらはあくまで指導であって、単に従わないからといって、営業禁止や罰則適用の背景はありません。もちろん結果として食中毒を起こせば食品衛生法第4条が適用されて営業禁止に至りますが。
 O−157食中毒などの防止対策の対象施設として、病院や福祉施設の集団給食施設は最も要注意施設とされております。そこで厚生省からは保健所に対し、大量調理施設衛生管理マニュアルに基づいた管理を行っている施設かどうか一項目づつ審査し、不可の項目については改善報告書の提出を求め、厚生省あて毎年報告するよう求めてきています。
 さて本論のマニュアルに示された品温測定についてでありますが、測定法や基準となる温度は示されておりません。また表面温度か中心温度かも定められておりません。そのためそれらは施設の規模や状況に応じて実施するということになります。
 @測定方法
  中心温度計: 差し込んで測定。最ものぞましい温度が出るが、指示値が出るまでに最低2、30秒必要となる。密封包装なら開封する必要がある。食品や包装の表面に端子を触れさせて測定す場合は、もっと測定時間を要することとなる。
  表面温度計: 器械の値段が高いが、すばやい。中心部と表面の温度に差がある場合は参考データとなる。表面の材質によって1〜2℃温度誤差がある。(材質によって、温度補正すれば良いのだが。)
 どちらでも出来る方法で良いと思います。(納入と同時に冷蔵するのなら、測定せずに、その冷蔵庫の温度でいいじゃないかという議論もありますが、少し乱暴ですね。運送時に間違いなく冷えていればそれでもいいんでしょうが。)
 測定回数: 納入の都度測定ということになるんですが、中心温度をすべての原材料について測っていると、日が暮れる、なんていうことになってしまいかねませんね。でも、たまに測定すればOKとはいえないところです。やはり表面温度で毎回すばやくが便利、ということになるのでしょうか。
 A基準温度
  何もありません。上に記載した保存基準などを参考にしていただくとか、刺身用の魚なら4℃以下とか、要冷蔵のものなら10℃以下とか、5℃程度とか。現場により設定していただくことになります。もしくは設定していないところの方が多いかもしれません。
 また、従来冷蔵庫の温度を何度に設定するのか、ということについては5℃くらいにしてくださいね、と言っておりました。そうすれば保存基準の10℃まではかなりはなれているので大丈夫と考えておりました。ところが、刺身用鮮魚については、魚市場からスーパー、食卓まで4℃以下で保存しないと腸炎ビブリオの食中毒が防ぎきれないとの考え方が本年(平成12年)厚生省より示されました。そこで刺身用鮮魚はパーシャルルームに入れるか、冷蔵庫全体の設定を5℃程度ではなく2℃くらいまでに下げるということになるのでしょうか。冷えすぎて凍ってしまってはいただけませんが。
 B受入基準温度から外れた場合
  この対応が最も大切です。豆腐の受入れ基準を10℃と設定したのに、10℃以上で納入された場合、まず責任者に報告されなければなりません。責任者は、納入時に外気に触れるから若干プラスでもしかたがないのか、表面温度だから中心温度より高いはずだからしかたがないのか、受入れ基準はこれらも十分見込んだ温度だからやはりだめだとか、今回だけなのかいつもなのか、中身は大丈夫なのか、納入業者の保冷車が不良なのか、仕入先を変えた方がいいのではないか、、、などピーンと頭が働かなければなりません。また、今日はこの豆腐を使えるのか、廃棄するのか返品するのか、生食はやめて湯豆腐で利用することにしようかなども考える必要があります。やはり、予めとるべき行動を決めておく必要があります。
 保存基準の定められた食品については、基準から外れないように保存しなければなりません。運搬時に若干だけ外れた場合は?なんて細かいことは想定しておりません。外れないように運んでねというしかありません。

(3)食中毒菌と保存温度
 基準が定められていない場合は結局自ら考えて、自主的に基準を作ってしまうしかないのですが、考え方の基本は食中毒を起こす菌のコントロールです。
 一般的にこれらの菌は20℃以上で増殖、30℃以上では極めて早く増殖します。10〜20℃ではごくわずか増殖可能10℃以下では停止状態、というところでしょうか。低温性細菌のエルシニア菌などはもっと低い温度でも増殖しますが。
 また、食中毒は一般的に食中毒起因菌が食品中で大量に増殖し、それを摂取して起きるので、少々付着しても保存温度を下げることによって増菌しなければ大丈夫、という考え方も成り立つのですが、一部には少量でも発症するものもあります。O−157や赤痢、コレラなどの伝染病菌、一部のサルモネラ、キャンピロバクター、SRSVウィルスなどです。これらは、付着そのものの防止を図ることが最も重要となります。
 黄色ブドウ球菌やセレウス菌など毒素産生するものもありますが、一般的に毒素をすみやかに産生するのは20℃以上に保存された場合です。
 なお、カビの至適発育温度は、20℃程度です。また、牛乳に低温細菌が混入した場合は10℃以下でも増殖して、苦味が出ることもあります。
 また、20℃から50℃の危険温度帯に食品がとどまる時間を出来るだけ少なくする、すばやく加熱すばやく冷却が調理の基本、保存の基本となります。
 以上、色々勘案して、通常5℃程度の冷蔵庫に入れて保存、刺身だけはパーシャル室に突っ込んで保存、ということになるのかなあ。

(4)検品時の状況
 検品時の状況は、メーカーにおける出庫前の保冷室の温度でもなく、食材屋さんの冷蔵庫の温度でもなく、運送用保冷車における温度でもない。5℃程度に管理された保冷車から、5℃程度の病院の冷蔵庫に入れる途中と考えれば5℃±5℃ max10℃以下程度が受入れ基準かなというふうにでも考えるのでしょうか。
 肉類、畜肉加工品、鮮魚、魚肉加工品、豆腐等大豆加工食品、牛乳、乳製品などの品々についても、刺身(4℃以下)を除き10℃以下ならまずはOKということになるのでしょうか。
 また、製造者による保存温度表示もこれらの包装には表示されているはずですので、受入れ基準もこれらに従えば良いと思います。
 一方納入業者が、クール宅急便の車のように、常に温度管理された保冷車を利用していたり、自社冷蔵庫から庫出し後10分15分でスピーディに納入という形が日常的に可能なのかどうかなど、給食施設以外の外の条件も考慮に入れる必要があります。
 受入れ基準を定めたのに、夏場だけはどうしても基準に合うように納入されないということなら、夏場だけは原材料を変えたり、調理方法を変えるという方向に進路を取っていくことになります。
 こんなところでしょうか。各施設で出来ることを何とかやっていただくということになるのでしょうか。地方によってはもっと厳しく取り組んでいるかもしれませんのであしからず。



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