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△△△食監物語
ヒスタミン食中毒だがや            h13.2.10

1 はじめに
 2月の立春を聞いてすぐの昼休み、保健所近くの会社の総務課から電話が入った。「配達弁当を食べた社員が、食べて直後から顔が赤くなって頭も痛いと言っている。みんな病院へ出かけた。」と、第一報が入った。
 何だこれは、食中毒にしては潜伏時間が短かいなあ。顔が赤くなるというからヒスタミンが原因かな、ヒスタミンなら赤身の魚を食べているのかな。まさか毒物ではないだろうな、と考えつつ調査に入った。

2 あたった人
 弁当の配達先は全部で6個所あった。順次調べてみると67人が弁当を食べ、うち43人があたっていた。発症率は64%だ。
 症状は顔面の紅潮が全員(100%)、頭痛(79%)、吐気(23%)、発熱(21%)であった。幸い比較的軽い症状が多く、蕁麻疹が出るとか酩酊にいたるものはなかった。
 食べてから症状が出るまで、早い人は食べてまさに直後の5分後には顔が赤々となり出しなんか変だぞと言い出した。遅い人でも70分後、平均42分であった。食中毒事件で分単位の潜伏時間は珍しい。
 あれこれ話を聞いていると、カジキが変だったよ、食べる時に舌にピリッときたんだよなあ、でも食べちゃったんだという人もみられた。

3 カジキが怪しい
 弁当のおかずを調べてみると、カジキのピカタ、ジャガイモの煮物、ほうれん草のおひたし、スパゲティサラダ、漬物であった。こりゃあやはりカジキが一番怪しいなあと見当がついた。食べ残しのカジキのピカタを検査に回した。弁当屋さんには当日の弁当が一食保存されていた(保存食)のでそれも検査に回した。冷凍庫には調理前のカジキが残っていたのでこれも検査に回した。カジキの仕入先の水産会社にはカジキが丸のままで数十本残っていたので、そのうちの7本からもサンプリングし、検査に回した。
 検査結果は次のようであった。

 表 カジキのヒスタミン及びヒスチジンの含有量
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  検 体             ヒスタミン   ヒスチジン
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 食べ残しのピカタ       4.5mg/g  0mg/g
 弁当屋の保存食のピカタ  4.5     0
 弁当屋の冷凍庫のカジキ  4.5     0
 弁当屋の解凍カジキ     4.9     0
 水産会社のカジキ       0      2.9〜6.5 
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 表のように弁当屋さんのカジキだけからヒスタミンが検出され、水産会社のものからはヒスタミンの前駆物質のヒスチジンだけが検出されこれらは正常品と考えられた。 ふきとり検査や食べ残しの細菌検査からは食中毒起因菌は発見されなかった。
 弁当屋さんはカジキを仕入れてすぐに調理室の冷凍庫に入れており、すでにヒスタミンを産生したカジキを仕入れてしまった可能性が高いと考えられた。

4 行政措置
 緊急避難として弁当屋さんに営業禁止命令をだし、食中毒の原因究明と原因の排除が終わるまで閉店をしてもらった。4日間。
 水産会社には原因カジキの廃棄をしてもらおうとしたがまとめてドンっと冷蔵庫に入っているため何時仕入れたものか皆目見当がつかず、結局数十匹(約400kg)まとめて廃棄してもらうこととなった。

5 まとめ
(1)ヒスタミンの産生
 ヒスタミン食中毒は赤身の魚でよく発生する。赤身の魚にはアミノ酸のヒスチジンが大量に含まれており、そこにモルガン菌(Morganella morganii)などヒスチジンをヒスタミンに変えてしまう菌が大量に増殖すると事故にいたる。今回も、食べ残しや、弁当屋さんに残っていたカジキのヒスチジンは全部ヒスタミンに変化していた。
 ところが、カジキからはモルガン菌などヒスタミンを産生するような菌は発見できなかった。どのようにしてヒスタミンが発生したのか今もって不明である。
(2)ヒスタミンは味見で分かるか?
 弁当で当たってしまった人の話にも出てきたように、ヒスタミンを含む魚はピリッと来るようだ。実際ヒスタミンが含まれた冷凍カジキやピカタにしたものを、舌先にのせて実験してみたところ、ピリピリッと刺激を感じることが分かった。
 運悪く、今回のようにヒスタミンを含んだような食材を仕入れてしまったような場合も、ちゃんと官能検査で味見をしておけば防げた事故かもしれない。調理者は味見をしたのかしなかったのか、ピリピリッときたのかこなかったのか、ピリピリッときたのにこりゃあ危ないっと気がつかなかったのかどうかは分からない。気がついて欲しかったところだ。
 そういえばいわしの丸干しを扱う業者は、ちょっとかじってみてピリッとくると”舌差しがする”と言って不良品扱いとしていた。かつてそのような申し出のある丸干しのヒスタミン検査をしたことがあるが、なるほどヒスタミンがそこそこ検出され、専門業者の舌はすごいなあと思ったことがある。
(3)カジキのロット管理
 物流業者やスーパーでは先入れ先出し、ロット管理などは常識である。今回の水産会社はカジキのロット管理は全くしていなかった。ちゃんとロット管理をしていれば、400kg全部の廃棄ではなく原因となったカジキのロットの廃棄だけですんだと思われる。

6 おしみゃあに
 ヒスタミン食中毒はさいが、普通の食中毒とはチョコッと違う。ヒスタミンはアレルギー反応を起こす物質そのものだぎゃあ。だから一気に体がアレルギー反応を起こしてまうんだわ。食べる量が多いと激しく蕁麻疹が発生したり、酩酊状態になると言われているんだわ。
 マグロ・カジキ・サンマ・サバ・イワシなど赤身の魚はナモ、昔からようあたって蕁麻疹を起こすと言われてきたんだわあ。近頃は冷蔵設備がよう整うて事故が少のうなったわナモ。干物は冷風乾燥と言うてナモ、熱をかけずに冷たゃあ風をがんがん当てて乾燥してチルド流通だわ。モルガン菌の増える間もないわナモ。
 世も変わったナモ。

               (食品衛生学雑誌 2000年41巻2号 J-187頁より)
 
おまけQ&Aコーナー

(1)カジキは白身?とは鋭い突っ込みで参ったのポーズ。
食品微生物学(医歯薬出版)s51 のp362〜にアレルギー食中毒の詳細が記載されていました。
 モルガン菌によるヒスタミン産生実験によると、マグロ・サンマが一番で3200-6400ppmついで、かつお・あじ・さば・カジキ・とびうおで3200ppmとなっております。コノシロ・スズキ、鮭、ボラでは少なく、200ppm程度しか産生されません。トビウオやカジキが赤身かどうかは難しいところですが、一応ヒスタミンの産生しやすい魚ということで赤身っぽい魚に入れてしまうのでしょうか。

(2)ヒスタミンは低温でも産生するのでは?
 まさかとは思ったものの次の記述もありました。

サンマみりん干し製造実験
 −モルガン菌汚染調味液による実験−
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  調味液漬込み         ヒスタミン
(16hr)温度  乾燥温度   1日目    2日目    3日目   4日目
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    5℃      5℃    微量発生     
   27℃      5℃   400ppm    500ppm  1000ppm 1500ppm
   27℃     27℃   500ppm   1000ppm  1600ppm 3000ppm
   27℃     37℃   700ppm   1100ppm  1800ppm 3200ppm
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    *この数値はグラフより読み取ったので、おおよそのものです。

 この実験は、調味液への漬け込み温度がその後のヒスタミン産生量に
大きくかかわっていることを示しています。まさにたかいさんのご指摘の
とおり、汚染具合によっては冷蔵中でも徐々にヒスタミンが産生されて
いた可能性があります。

 試してみても面白そうですね。




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