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△△△食監物語
 手洗いの科学    h12.6.18

1 はじめに

1 けんちゃんのばいきんたいじ
 幼稚園や保育園で、母と子の食品衛生学級をもう15年ほど行っている。これは、親子一緒に食品衛生の勉強をしてもらおうという試みで、いつも最初には「けんちゃんのばいきんたいじ」というスライドを上映する。中身は、園児のけんちゃんが、遊んだ後、手を洗おうかどうしようかと迷うが、結局洗わなかった。そして、ケーキを食べ、腹痛を起こしてしまった。という内容である。
 「なんでけんちゃんは、腹痛を起こしたのかな?」と子供たちに聞くと、「手を洗わなかったから」と答えが返ってくる。私は、「うんそうだね」とあいずちをうった後で「でもね、いつもいつも必ずおなかいたを起こすわけじゃないんだよ。運が好ければ健ちゃんは、おなかいたは起こらなかったんだよ。たまたまばいきんがついていなかったとか、ばいきんがついていてもばいきんに元気がなかったとか、運がいい時には何ともないんだ。」
 「うんうん」と子供たちはうなづく。私は続ける。「でもいつもいつも運がいいとは限らないんだよね。運が悪いと、手を洗ってないと、けんちゃんみたいに腹痛になっちゃうんだよ。だから、運まかせにせずに、いつもちゃーんと手を洗っておけば大丈夫なんだよ」「はい分かった人」と私が言うと、「はーい」と元気な返事が返ってくる。

2 食品工場における手洗い
 弁当工場や惣菜工場では、従業員の工場への入場時の手洗いは、基本の基である。まず、石けん液で十分に手の汚れを取り、爪ブラシも使って爪の汚れも取る。その後ブロワーで手を乾燥させ、最後にアルコールをスプレーし殺菌する。こんな工場
が多い。
 ここでのポイントは、1つは手の乾燥方法の問題である。ブロワーでの乾燥には10秒ほどの時間を要するが、この時間が意外と長く感じられる。後ろがつかえていると、ピッピッと手を振って水を切り、まだまだぬれた状態でアルコールをスプレーしてしまう。これではアルコールの濃度が薄まり、殺菌力が落ちてしまう。また、濡れた手を、お尻でふいてしまう場合もある。そんな癖がなかなか直らない。ブロワーではなく、ペーパータオルなら一気に水気が取れる。しかし、ゴミがかさばって場所を取る。
 もう一つは、アルコールによる手荒れの問題である。アルコールは人体に害も少なく、重宝がられるが、手荒れが起こる。これは、アルコールが、皮膚の保護の役目をする皮脂を溶かしてしまうため、皮膚が無防備な状態となり、手荒れが来し易くなってしまうのである。
 手荒れには、食中毒起因菌である黄色ブドウ球菌がすみつきやすい。何のためのアルコール殺菌か、ということになる。アルコール噴霧は、やはりポリ手袋をはめ、その上から行うのが良いだろう。
 アルコール殺菌の代わりに、逆性石けん原液を1ml手のひらにとり、十分手に擦り込む、という方法もある。この方法も手が荒れやすい。逆性石けんを1%に薄めたものを手洗い容器にいれ、そこに30秒間手をひたし、殺菌をするというやり方もある。この方法がかつては一般的な方法であったが、時間がかかる。また、殺菌剤入り手洗い容器に石けんの付いたままの手が入れられると、石けんと逆性石けんが化学反応して、殺菌効果が台無しになってしまう。
 「手洗いの科学」の著者西田博氏は、石けんもみ洗い30秒、流水すすぎ20秒、逆性石けん1%液浸漬30秒、そして最後にペーパータオルでふきとる、という方法を薦めている。
 サラヤは流水予備洗浄10秒、石けん液を付け泡立て20秒、流水洗い15秒、ペーパータオル又はブロワーで水分除去、アルコール4mlを手に取り、乾燥するまで手にまんべんなく擦り込む、という方法を推薦している。又、用便後や衛生水準のより高い部屋に入室する時には必ず上記の手洗いをすること。作業中の手の殺菌には、実際的判断として、手が見た目に汚れている場合には、石けんによる洗浄及びアルコール殺菌、見た目に汚れが無ければアルコールによる殺菌のみで済ませることとしている。
 厚生省作成の、大量調理施設衛生管理マニュアルの中の手洗いマニュアルでは、水で手をぬらし石けんを付けて指・腕を洗う30秒、石けんを洗い流す20秒、0.2%?逆性石けん液をつけて指をよくこする(又は1%逆性石けん液に30秒漬ける)、よく水洗いする、ペーパータオルなどでふく、となっている。
 いずれにせよ、製造する食品に求められる衛生水準や手洗いスペースの確保状況などを考慮に入れつつ、どのような手洗いの方法にするか決めることとなる。

4 手荒れの防止
 洗剤を使う時には、使用方法にしたがって、水で薄めて使うこと。スポンジに原液を付けて洗うと、濃い洗剤が皮膚を侵すこととなる。レンジクリーナーや、床洗浄剤など強力な洗剤には強アルカリ剤が配合されているため、皮膚を溶かしてしまう。必ず丈夫なゴム手袋などを着用しないといけない。
 水仕事の後は、皮膚から皮脂が取り去られ、無防備な状態となっている。皮膚自身の能力で皮脂が分泌されてくるが、分泌が追いつかない分は、クリーム等をごく少量付けて補ってやらないといけない。ただしつけ過ぎると、皮膚自身の皮脂分泌能力がだめになってしまうかもしれないので程々に付けましょう。
 手の状態がひどくなった場合には、早めに皮膚科に受診し専門的な治療を受けることも必要になります。細菌による感染やアレルギーなど素人には手におえないものも多くあるためだ。

5 皮膚の構造と黄色ブドウ球菌
 皮膚は、表面から、表皮(角質層、顆粒層、有棘層、基底層)、真皮、皮下組織、という構造になっている。新しい皮膚の細胞は、表皮の基底層で生まれ、徐々に表面に押し出され、角質層に至り、最終的にはあかとなる。1ヶ月のサイクルである。
 黄色ブドウ球菌は食中毒を引き起こす。そしてこの菌は手の傷や荒れた手からよく検出される。そのため“手に傷がある場合は、おにぎりを素手では握らないで”となる。
 皮膚には色々な菌がいるのであるが、菌の種類によって皮膚にくっつきやすい菌とくっつきにくい菌がある。黄色ブドウ球菌はくっつきやすい菌の代表格だ。
 こんな実験がある。実験動物のマウスの皮膚に擦り傷を作り、黄色ブドウ球菌を塗り付けたところ、菌はぐんぐんと皮膚をかき分けかき分け深く入り込み、角質層の下にすきまを作り、そこで自らねばねば物質を分泌し、付近の皮膚残骸や血漿成分、組織液と複合体を作ってしまうというのだ。
 手の傷ならまだしも、寝たきり老人の床擦れに入り込んでいることが多いしそれが、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)であれば抗生物質も効きにくく命取りになりかねないという。黄色ブドウ球菌の仲間にはそんなすごい菌もいるのだ。

6 おしみゃーに
 手洗いはなも、考ぎゃありゃあ考ぎゃあるほど難しいんだわなも。たとえばなも、トイレで用便直後、下着を戻す前に、まず手を十分洗って、きれいになった手で下着をさわらにゃあ、だちかん。でにゃあと、お尻をふいた手から下着へ、服へそして食品へと、汚染の輪が広がるぎゃあ。
 ちょーと考ぎゃあすぎかなも。

   * だちかん : らちがあかない。ダメ。



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