尺八各論 本文へジャンプ


(5)音の出だしは丸く出し、だんだんふくらませる−長音−

以下は実験段階のものです。誰もがうまくいくとは限りませんのでご注意。
 大きな音が出だしたころ師匠から、最初から大きな音を出すと聞き苦しいので、出だしは丸く出してだんだんふくらませなさい、と指導を受けました。
 そうなんです。はなから高圧力がつ息の量全開で音を出すと、ボンという破裂音からはじまるかのように聞こえます。
 ではどうするのでしょうか。
  
 上左の図のように最初は息をそっと出し音が鳴り出したら、右の図のように、下あごを引くことによって息の方向を下に向けつつ、息の量を増やしながら、圧力も上げ、安定させます。(息の方向を下に向けるといっても孔1個か2個分です。)上唇の位置はほとんど変わりません。下唇だけが動きます。図1ではおだやかな音が出始め、図2に移るにしたがいだんだんとツヤ音に変わっていきます。まさに尺八らしい音がヒュオーーンと出てきます。このあたりのことを達人の教えなどの章で達人C 氏が唇をこするとすばらしい音が出る、と表現していたのだと思います。音の終わりはまた上の図 図1のおだやかな音に戻します。


  息の方向を孔一つ下げるのは前項のアンブシュール(唇の形)−唇の本格的な動かし方−の説明の中の、下の音を出す唇の動きと似ています。下の音を出す場合は穴をふさぎ、息の方向を変えるだけで、息の量や息の圧力はさほど変わりませんが、音をふくらませる場合は音の高さは変わらずに、息の方向を下げ、息の量を増やすとともに、息の圧力もだんだん上げていくわけです。

 息の量や圧力、息の方向によって、上図のように色々な音色が出ることがわかります。
 この図とそっくりで、もっと色々な音を網羅した図をどなたかが紹介されているのをどこかで見たことがあります。本棚などを一生懸命に探してみたのですが残念ながら出てきません。その図にはX軸やY軸の説明の記載がなかったようでその時はあり得ない、と思ったのですが、あり得ます。
 普通に圧力と息の量を増やしていくと、音色はおだやかな音→ツヤ音→響き渡る音→爆音へと変わっていきます。息の方向はだんだん下のほうへ押し込むように吹き出します。息の量を増やして息の圧力をあまり上げなければゆるんだ音・ぼけた音になります。息の量をあまり増やさず息の圧力だけを増やしますと硬い音になります。
 ここで、息を吹き出す角度は非常に重要です。ある音を出そうとする時、息の圧力と息の量に応じて吹き出すべき息の角度が決まり、音色も決まります。そんな微妙なことは出来なさそうに思えるのですが、出来ます。まず弱目に音を出し、その息の量で出来るだけ音色や響きががいいように調整します。それがおだやかな音です。おだやかな音が決まったら、徐々に下あごを引くことにより下唇を引き息の吹き出し方向を下方向にしつつ息の量を増やします。あごの引き方や息の量を微調整しながら音色を良く聞いているとツヤ音に変わってくるはずです。探しましょう。探りましょう。息の方向を下げるのは孔1個か多くて2個分です。

  
 唇をあたかもこすり合わせているような感じです。ツヤ音が出だしたらさらに圧力をかけ息の量も増やしていったら、いくらでも大きく響き渡る音が出せるような気になります。私はまだ出来ませんが、達人A氏はカリ気味に吹いて歌口の裏側に息をぶつければいくらでも大きな音が出るとおっしゃっています。この唇こすりのわざとカリ気味吹きをあわせればいいのかなあと思索をめぐらせているところです。

 息の角度が合わない場合はどうなるのでしょうか。角度があっていないと残念ながらツヤ音にはなりません。おだやかな音や硬い音やゆるんだ音、響き渡る音、爆音すべてうまく出ません。静かに音を出したら、耳を澄ませて笛の音を聞きながら下あごを少しずつ引いていき息の角度をだんだん下向きにしましょう。澄んだ音が出なければ何度か下あごをゆっくり前後してみましょう。耳を澄ませてみてください。このあたりがぴったり角度のポイントかな、と思ったら息の流量を増やしながらさらに下あごを引いていきます。ツヤ音が出てさらに響き渡る音が出るはずです。息漏れのない静かに響く音澄んだ音、肺から抵抗もなく静かにスーッと音が出ればそれがツヤ音への入り口です。唇こすりと息流量増加によりツヤ音、響き渡る音に変化していきます。
 唇こすり(下あご前後動)については、『(4−b)アンブシュール(唇の形)をあやつるーあごの動かし方ー』の項であごの動かし方を細かく説明しておりますので、唇がすり切れるくらい(すり切れることはありませんが)フースリースリーフーと練習してみてください。目指せツヤ音!
 さて、『達人の教えなどー(3)達人C氏の教え』の項で達人C氏は次のように述べています。
  1.一音(たとえば甲ロ)を出します。
  2.音が出たら、ほんの少し下唇を前に出し気味にします。
  3.そして、下唇は大体そのままにする気持ちであご(顎)を手前下  にゆっくり引いていきます。(実際は下唇も顎に少しついていく)
 私の説明と達人C 氏のとでは微妙にずれています。特に 3.であご(顎)を手前下にゆっくり引くと述べています。なるほど、私の説明のようにするとあごを引いて息の量を増やすので息の圧力が高まりすぎてしまう可能性があります。あごを手前下に引いて息の出口を広げながら息の量を増やすというのが正解かもしれません。(研究中)
 また、『達人の教えなどー(1)達人A氏の教え』の項で達人A氏は次のように述べています。
 1 唇と歌口は近いほうがよい。いい音が鳴る。
 2 まず笛をカリ気味にする。→ そのまま吹くと歌口が遠いので息が  かすれる。 → 笛はカッたままで笛を唇に近づける。(カリを戻して   はいけない。) → やや唇を突き出すようにして近づける。
 5 唇は上唇よりも下唇を出すようにする。(息が前方に出る。)
   → 上唇を下唇よりも出してしまうと、息が下に出るため、穴に大部分が入ってしまうので駄目。
 6 練習は乙のロで大きな音を出すのがよい。出やすいはずだ。そうすれば、チとかあれこれ大きい音が出るようになる。
  と述べています。特に5で、唇は上唇よりも下唇を出すようにする。(息が前方に出る。)と説明されていて、私の説明のようにツヤ音を出す時にあごを引くと上唇が突き出てしまうので、達人A氏の説明から全くずれずれになってしまいます。6の、練習は乙のロで大きな音を出すのがよい。出やすいはずだ。というのは実際そうでした。カリ気味にして唇を歌口に近づけてふっと吹くと乙音のロが大きい音で出ました。
(これらも研究中です)
 長音1個だけでなく、音のつながりやメロディーはどのように吹くのでしょうか。それはまさに現時点での私の研究テーマです。次の項で、、、
 

 以上は実験段階のものですので上達を保障するものではありませんし、スランプに陥る可能性もあります(おわび)。あれこれと研究する中で一緒に上達しましょう。