尺八各論 本文へジャンプ
(6)開いて吹く

 「開いて吹くように」とおっしゃるのは、達人B氏です。
1「息を絞らず開いて吹く」(B氏の教え)
・尺八の息は強い息が基本。開いて吹く。息を絞らないこと。唄を歌うのと同じ。喉を絞ってはいい声にならない。のどを開いて腹から声を出すといい声となるのと同じ。
・音を飛ばすこと。音を絞らないこと。開いて吹くことが大切。
・初心者のうちは強く吹くと息切れがしてしまうので、そっと吹くことで、息継ぎを我慢していることも多いが、いつまでもそっと吹いていてはいけない。
・多くの人は小さい音になじんでしまっている。意識して絞らず開いて吹く。
・そっと吹くのが習慣になった人は開いて吹くのに1年はかかる。
 ・ストローで息を吹く。ごく強く吹いて、息の強さが十分前に出るように。それくらい強く吹く。
 ・大甲レを吹こう。大甲レは息を絞っては音が出てこない。大甲レを吹いて、さらに息が広く開いて吹けるように練習するとよい。

 尺八は唇やのど、息の通り道を開いて吹く、強く吹いて圧力をかけることが必要です。開きが不十分だと、息量が増やせず、圧力が無駄になり、いい音が鳴らないものです。

 大きい音、響き渡る音を出すためには
 @腹筋を使って、安定した勢いのある息をスッポーンと出すこと
 A肺から出た息を全部音に変えてやること
 Bそのためには、歌口に正確に吹き出すこと
 Cまた、音の高さ・低さ、息の量の多さ・少なさ、息の圧力の高さ・低さに応じて、歌口に当てる息の角度を変えてやること
が必要となります

 尺八の太さは、リコーダーや横笛に比べてはるかに大きく、見るからにたくさんの息の量が必要そうに見えます。ところが、いさ吹いてみると、息漏ればかりが気になって、(実際息漏れで息も絶え絶えになります)思い切り息を吹き込むことが出来ません。トランペットやトロンボーンなどマウスピースのついたものは、息を吹き込んだ分だけ音に変化しますので、気合が音の大きさにつながります。
 尺八はどうしても息を細くしたくなってしまいます。
 ではどうすれば開いてふけるのでしょうか?

2 チャレンジ@ 「ツレツレツレ レーーーーー」
 どのように開くのか。たとえば音だし練習のとき私のよくやる方法は、レの音を出す場合、「ツレツレツレ レーーーーー」とツレツレツレを前に挿入してからレの音を出します。何回も繰り返します。最初は息の方向が合わないためか細いかすれた音ですが、唇の形やあご当たりの位置をあちこち微妙に探っているうちに、だんだん息の方向が合ってきて、開いてきたのか大きい音になっていきます。これが開くためのチャレンジのひとつかなと思います。
 「ロツロツロツ ツーーーーーーー」
 「ツレツレツレ レーーーーーーー」
 「レチレチレチ チーーーーーーー」・・・順番にやって見ましょう。
 なお、
 @音が高くなるにしたがって、息の方向は微妙に上のほうになります。
 Aまた高音では唇全体をやや突き出します。
 B息の量を増やす(音を大きくする)にしたがって息の方向は微妙に下になります。

3 チャレンジA スムーズにユレる位置を探す

 開いて吹くためには、唇の位置や形・あご当たりの位置が非常に大切です。この位置が正しいかどうかを知るためには、鏡で見るのももちろんいいのですが、鏡であわせても最後の微妙な位置は、ユッてみて音を出してみなければわかりません。
 ユッてみてすぐに音が途切れるようでは位置が正しくありません。唇の位置・笛の位置・あご当たりを確認しましょう。たまには首の傾きも見てみましょう。私は首が左に傾く傾向があり、そのままユルとうまくいきません。
 ユッてみてスムーズにユレるようでしたら開いて吹く形に近づいていると思います。

4 チャレンジB 唇をこする

  
 上の図Aのように、あごを普通の状態にしていると、上の歯は下の歯の前にあります。あごを使うためには、下あごを前後させて上の歯と下の歯を同じ位置まで持っていったり、さらに下あごを前へ持っていって図Bのように上の歯よりも下の歯が前に出るまで動かします。
(なお、図A,図Bのように歯が息の通り道を邪魔するようなことをしてはならないことです。図は分りやすいように歯が見えていますが、通常は唇の中に隠れて、息の通り道を空けています。)

 達人C氏の章や4−bあごの本格的な使い方などで述べていますように。唇をこすって息をやや下の方向に出すようにすると、息の出口が太くなりますので、太くなると同時に息の量を増やしてやると大きな音になります。これも開いた音に近づけると思います。

5 チャレンジC 唇をこすってからユる
 だんだんユる練習になってきていますが、唇をこすって息の出口を開き息の量も増やした上で、ユッてやると尺八らしいプオーという音が出てきます。これも開いた音に近づくと思います。

6 チャレンジC カリぶきする

 これは達人A氏がおっしゃっていることですが、「歌口の線に向かってまっすぐ息を吹き込んではいけない。歌口の裏側にぶつけるように吹きなさい。そうすれば的が広くなるし音もおおらかに大きな音になる。」
 確かに乙ロでは、カリぶきにしてやや唇を押したほうが、鳴りやすい気がします。カリぶきするのなら、いつもより唇を少し押さないと音が高くなってしまうと思います。・・・・

7 チャレンジD 尺八を下げる
 これは友人の師匠がおっしゃることのようですが、「尺八をもっと下げて吹けるようになれば」とのことです。尺八を下げるのと、カリぶきするのとは、同じことのように思えますが・・・・。
 尺八を下げた場合、息の方向は少々下方へ下げなければなりません。そうしないと、息が歌口より上に出てしまい、音がかすれたり音がでなかったり、します。
 普段人間は、息をふっと吹き出すときには、口の真前に出すものですが、尺八を下げた場合、口は前を向いていても息はやや下のほうに出すわけです。これは意外と、唇が開き息の量も大量消費できます。「開いて吹く」に近づくかと思います。

8 その他
 達人B氏は、「笛を下げすぎてはいけない」とおっしゃっていました。6 カリぶきする、7 尺八を下げる、とちょっと違いますよね。達人B氏はたぶん、のどをあけておくように、ということだったのかもしれません。
 達人B氏はまた、練習する時には、譜面台を最大限に挙げてみましょう、目線を高くすればでかい音が出てきます、とおっしゃっていました。別の項で述べます。
 結局、開いて吹くというのは何なのでしょうね。CDでプロの音を聞くと澄み渡った音、響き渡る音です。決してくぐもった音、かすれた音、息苦しい音ではありません。いい音を追求しましょう。